「芋虫」(江戸川乱歩)

こちらもグロでエロで醜悪です。

「芋虫」(江戸川乱歩)
(「江戸川乱歩全集第3巻」)

 光文社文庫

「江戸川乱歩全集第3巻」光文社文庫

「芋虫」(江戸川乱歩)
(「あしたは戦争」)ちくま文庫

「あしたは戦争」ちくま文庫

時子の夫は戦争で
両手両足・聴覚・言語といった
五感のほとんどを失い、
「芋虫」のような醜い姿となっても
生き続けていた。
時子はそんな夫を虐げて
快感を得ることに
心地よさを感じていた。
彼女の嗜虐心はさらに昂ぶり、
ついには…。

グロテスクで醜悪な乱歩の世界として
前回「人間椅子」を取り上げましたが、
こちらもグロでエロで醜悪です。
「人間椅子」もそうですが、
こうした世界を創り出す
乱歩の想像力のすさまじさに
驚嘆します。

【主要登場人物】
須永中尉
…戦争で負傷、四肢と聴覚・言語機能を
 失った。金鵄勲章を下賜される。
須永時子
…中尉の妻。夫を虐げることに
 悦びを感じるようになる。
鷲尾少将
…中尉の元上官。須永夫婦に家を貸与。

まず芋虫人間の存在。
戦争によって両手足が
根元から奪われています。
「その物は、
 古びた大島銘仙の着物を
 着ているには相違ないのだが、
 それは、着ているというよりも
 包まれていると云ったほうが、
 或はそこに大島銘仙の
 大きな風呂敷包が
 放り出してあると云った方が、
 当たっている、
 その風呂敷包の隅から、 
 にゅッと人間の首が突き出ていて」

想像を絶するグロです。

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そしてその状態の夫を
虐げる妻・時子の異常性。
虐げるというよりも
性的に玩ぶのでしょう。
はっきり書いてありませんが、
それをうかがわせる表現が
いたる所に散りばめられています。
「貞節な妻でしかなかった彼女が、
 今では、身の毛もよだつ
 情欲の鬼が巣を食って」
「三十歳の彼女の
 肉体に満ちあふれた、
 えたいの知れぬ力の
 させる業であった」
「時子は、ある感情がうずうずと、
 身内に湧起って来るのを
 感じるのだった」などなど。
異常なほどのエロです。

さらに時子は夫の唯一の
感情表現可能な器官としての眼を
興奮のあまり潰してしまいます。
「目丈けが僅かに
 人間のおもかげを
 留めていた。
 それが残っていては、
 何かしら完全でない様な
 気がしたのだ。」

目を覆いたくなるような醜悪さです。

いろいろな解釈が可能だと思います。
戦争で肉体を失った夫と
精神を歪なものにした妻を
描くことによって
戦争の異常さを訴える反戦小説、
常軌を逸した状態下での
夫婦の在り方を描いて
人間の意識下の深層に迫った心理小説、
戦場での四肢喪失という
生存不可能状態を生き抜いた
人間の末路を描いたSF小説、等々。

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しかし作者の自筆解説を読む限り、
そのいずれでもないことがわかります。
ただ単にそういう世界を
描いてみたかった。
乱歩の創造欲の産物なのでしょう。

乱歩も没後50年を過ぎ、
著作権が切れたことをきっかけに
多くの文庫から
作品が復活出版されています。
怖いもの見たさにいかがでしょうか。

横溝正史にも
 戦争によって四肢を失った兵士を
 素材とした短篇があります。
 こちらはコントです。

「江戸川乱歩全集第3巻陰獣」
 収録作品一覧

踊る一寸法師
毒草
覆面の舞踏者
灰神楽
火星の運河
五階の窓
モノグラム
お勢登場
人でなしの恋
鏡地獄
木馬は廻る
空中紳士
陰獣
芋虫

「巨匠たちの想像力〔戦時体制〕
  あしたは戦争」収録作品一覧

召集令状小松左京
戦場からの電話(山野浩一)
東海道戦争筒井康隆
悪魔の開幕(手塚治虫)
地球要塞海野十三
芋虫(江戸川乱歩)
最終戦争(今日泊亜蘭
名古屋城が燃えた日(辻真先)
ポンラップ群島の平和(荒巻義雄)
ああ祖国よ星新一

(2019.2.23)

画像はイメージです
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